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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)132号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第二号証、甲第三号証及び甲第五号証によれば、本願明細書、第一補正書及び昭和六〇年五月一三日付け手続補正書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

本願考案は、自動車用操縦装置に使用されるボール・ソケツト継手に関するもので(本願明細書第三頁第一〇行ないし第一二行)、継手のベアリング面が摩耗するまではボールに加わる摩擦トルクの安定した制御が行われるようにし、ベアリング面の摩耗が限度に達したときにはこれを正確に察知することができる検知手段を設けることを目的として(同第三頁第一七行ないし第四頁第六行)、実用新案登録請求の範囲第1項(前記本願考案の要旨)記載のとおりの構成を採用し、右構成を採用したことによつて前記目的を達する効果を奏するものである(同第三頁第一七行ないし第四頁第六行)と認められる。

(二) 一方、成立に争いのない甲第六号証によれば、第一引用例に記載のものは「例えば自動車のインデペンデント・サスペンシヨン、ステアリング・リンクエンド或は一般の産業用機械のリングを自在に接合するシステムなどに使用するボールジヨイントの改良に関するもの(第一頁第一六行ないし第二〇行)」であり、従来のボールジヨイントにおいては、「ボールスタツドの如何なる旋回移動に対してもボールジヨイントシートを回転しないようにすることが、ボールジヨイントシートの摩耗を少なくするためにも又ボールスタツドの旋回を円滑にするためにも強く望まれ(第二頁第四行ないし第八行)」ていたところから、「さらに一層ボールジヨイントシートがソケツトに対して動きにくくなるように改良(第二頁第一四行ないし第一七行)」することを目的として、「ソケツト5内周面に嵌装せる弾性と耐摩耗性を有する樹脂製ボールジヨイントシート1の環状突条3を有する鍔部2をソケツト5のフランジ部6とキヤツプ8の段付折り曲部9で圧縮狭持するボールジヨイントにおいて、ボールジヨイントシート1の上開口部4外周近傍に適宜数上方に突出して設けた突起12を、ソケツト5の上開口部7に設けた突起12と対応する切込溝部13に嵌め込み係止するようにしたことを特徴とするボールジヨイント(第一頁第五行ないし第一四行)」との構成を採用したものであることが認められる。

2 相違点の看過について

審決が、第一引用例には「ソケツトの長手方向軸線に対して直角な赤道の両側でボールジヨイントシート1によつて枢動可能に支持された球形頭部11を有するボールスタツド10」との技術的事項が記載されていると認定していることは、前記のとおり、当事者間に争いのないところである。

しかしながら、前掲甲第六号証によれば、第一引用例の記載を詳細に検討しても、「球形頭部11がボールジヨイントシート1によつて赤道の両側で支持されている」との明示的な記載はなく、また、そのように解すべき根拠となる技術的課題、技術的手段に関する明示的な記載も、またそれを示唆する記載もみとめられない。

すなわち、第一引用例記載のものは、前記1(二)で認定したとおり、ボールジヨイントシートがソケツトに対して一層動きにくくなるように改良することを目的として、ボールジヨイントシート1の上開口部4外周近傍に適宜数上方に突出して設けた突起12を、ソケツト5の上開口部7に設けた突起12と対応する切込溝部13に嵌め込み係止するようにしたものであるから、その目的とするところと「球形頭部11を赤道の両面で支持する」要件との間に技術的な関連性を認めることはできず、したがつて、第一引用例記載のものにおいて右構成要件を採用しなければならない必然性は存しない。なお、前掲甲第六号証によれば、第一引用例には「ボールジヨイントシート1はその内周面がボールスタツド10の球形頭部11の一部を包囲して(第三頁第五行ないし第七行)」と記載されていることが認められるが、右記載からすれば、第一引用例記載のもののボールジヨイントシート1は球形頭部11の一部を包囲すればよいものであつて、これが赤道の両側で支持するように構成されているものとまでは解されない。

被告は、第一引用例の第1図(別紙図面(一)参照)によれば、第一引用例記載のもののボールジヨイントシート1は球形頭部11の赤道線より約一四度下方まで包囲しているとみられることを根拠に、第一引用例記載のものが赤道の両側で支持されていることは明瞭である旨主張する。

しかしながら、右図面は実用新案登録願書に添付された、明細書記載の一実施例を説明するための図面であつて、図面に描かれた形状及び寸尺は設計図とは異なり正確なものとはいえないものであるから、右図面を計測して得た角度をもつて正確な数値ということはできない。また、右図面から、ボールジヨイントシート1が球形頭部11の赤道より下方まで何度かにわたつて接触していると見られるとしても、前記認定のとおり、第一引用例には、球形頭部11が赤道の両側で支持されていると理解できる記載も示唆も存しないから、当業者においてこのことから直ちに赤道の両側で球形頭部を支持しているものと理解できるとはいえない。

してみると、「第一引用例には、「ソケツトの長手方向軸線に対して直角な赤道の両側でボールジヨイントシート1によつて枢動可能に支持された球形頭部11」との技術的事項が記載されている」とした審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。

これに対して、本願考案は「ハウジングの長手方向軸線に対して直角な赤道Eの両側でベアリング・ソケツト18によつて枢動可能に支持された球形ヘツド17を有するボール・ピン16」を有するものであることは前記1(一)で認定したとおりであり、第一引用例記載のものとはその構成において相違するものであることは明らかである。

そこで、本願考案が右構成要件を採用した技術的意義について検討するに、本願考案は、継手のベアリング面が摩耗するまではボールに加わる摩擦トルクの安定した制御が行われるようにし、ベアリング面の摩耗が限度に達したときにはこれを正確に察知することができる検知手段を設けることを目的としたものであることは前記1(一)で認定したとおりである。そして、前掲甲第二号証、甲第三号証によれば、本願明細書及び第一補正書には「ハウジングの長手方向軸に直角な赤道の両側で、ボール・ピンのボールを支持するようにソケツトはボール・ピンのボールにばね締めはめあいの状態にあつて、継手のベアリング面が摩耗することにより決定される限度まではボールに加わる摩擦トルクの制御を行うように端部キヤツプにはボールに接して弾性的荷重が加えられ(明細書第三頁第一七行ないし第四頁第三行)」「ベアリングの端部キヤツプ24はボール・ピン16のヘツド17のうちのシヤンク15から遠い方でベアリング・ソケツト18に接していない面と接するように押しつけられる。このベアリングの端部キヤツプ24はふた部材21と端部キヤツプ24との間に作用するコイルばね25により押しつけられる。(中略)ソケツト内でピンが回転する以前にこれに打ち勝つ必要のあるトルク制御荷重はコイルばね25がボール・ピンのヘツド17に及ぼす荷重により与えられる(明細書第七頁第三行ないし第一三行、第一補正書第一頁第六行ないし第一一行)。」「ベアリング・ソケツトはボール・ピン16のヘツド17を支持する面の働きをする。ベアリング・ソケツトはボール・ピンの球形ヘツドを球形ヘツドの赤道(第1図において線E―Eで示す)の両側において支持するような形状を有する(明細書第八頁第六行ないし第一一行)。」と記載されていることが認められる。

右事実からすれば、本願考案は、球形ヘツド17をベアリング・ソケツト18の赤道の両側で枢動可能に支持することにより、シヤンク12より伝わる衝撃によつて球形ヘツド17がベアリング・ソケツト18から下方へ脱座する(カム・ダウン現象)ことを防いでいるものであり、このためベアリング端部キヤツプ24はカム・ダウンに対抗して球形ヘツドを上方に押し上げるという作用を営む必要はないものであると認められる。ところで、ボールソケツト継手のような場合、ボールが摩擦を受けることなく回動することは操縦装置においてリンク機構やハンドルに生ずる振動が他の個所に伝達され易いという欠点を生ずるため、継手の回転部分にある程度の抵抗を与えることが必要となることは技術常識であるところ、本願考案のベアリング端部キヤツプ24は、もつぱら、球形ヘツド17と接触してボールの回転に若干の抵抗を与えることによつて摩擦トルクの制御を行うという機能を果たしているものであると理解される。したがつて、ベアリング端部キヤツプ24を押し上げるばね25の力はカム・ダウン防止のためのものとは異なり、比較的弱い力ですむことは明らかであるから、ばね力の減少は少なく安定しており、そのため摩擦トルクの変化は小さく、長い期間にわたつて一定に保たれるものと認められる。してみると、本願考案は「球形ヘツド17の赤道の両側でベアリング・ソケツト18が枢動可能に支持している」との構成要件を採用することにより「安定した摩擦トルクの制御」を行うという作用効果を奏しているものであることが認められる。

これに対して、第一引用例記載のものは、ボールジヨイントシート1が球形頭部11を赤道の両側で支持していないため、カム・ダウン作用によりボールが下方に脱座し易く、これを防ぐためには端部キヤツプを大きなばね力で上方に押す必要があることは、その構成からみて技術上自明である。したがつて、第一引用例記載のものは、ボールが回動するときこれと接触する端部キヤツプから大きな摩擦抵抗を受けて動きは重くなり継手の摩耗も激しくなり、この結果端部キヤツプを押し上げるばねの伸び方が早く、ばね力が短期間で減少するため、端部キヤツプの押し上げる力が軽く、摩耗の少ない本願考案のものに比較して摩擦トルクの安定に欠けるものであるといわざるを得ない。

そうすれば、本願考案は、第一引用例記載のものに比べて、「ハウジングの長手方向軸線に対して直角な赤道Eの両側でベアリング・ソケツト18によつて枢動可能に支持された球形ヘツド17を有するボール・ピン16」を有する点においても、その構成を異にするものであり、この構成の差異に伴つて得られる効果にも格別の差異が存するのであるから、本願考案が第一ないし第三の相違点以外の点においては第一引用例記載のものとの間に構成において一致しているとした審決の認定、判断は誤りというべきである。

3 以上のとおりであるから、審決は、本願考案と第一引用例記載のものとを対比判断するに当たり、両者の相違点を看過したものであり、これが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。

自動車の操縦装置に使用されるボール・ソケツト継手において、ハウジング13と、ハウジング中のベアリング・ソケツト18と、ハウジングの長手方向軸線に対して直角な赤道Eの両側でベアリング・ソケツト18によつて枢動可能に支持された球形ヘツド17を有するボール・ピン16と、カツプ状のふた部材21によつて保持されたばね25によつて球状ヘツド17と接触するようにばね荷重されたベアリング端部キヤツプ24とを有し、ソケツト18はプラスチツク材料を用いて精密型込めされ、その肉厚端部分34にはフランジ23が設けられ、該フランジはハウジングの段22とふた部材21の縁部の間保持されており、またベアリング端部キヤツプ24はプラスチツク材料を用いて精密型込めされ、フランジ32と、肉厚端部分34に囲まれたベアリング・ソケツト18の入口の中へ延びる案内部分38とを有し、前記フランジ32はボール・ソケツト継手の使用前初期組立状態において、肉厚端部分34との間に所定の軸線方向隙間を有することを特徴とするボール・ソケツト継手。

(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

(以下省略)

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